フィンランドのジェンダー・セクシュアリティと教育

本書はフィンランドのジェンダー（社会的性差）を中心に、教育と性の関係を考察した本です。２０００年代になって注目されだしたその高度な教育水準だけでなく、フィンランドはほかの北欧諸国と並んで、経済成長率や生産性、生活水準、文化水準など、あらゆる社会的なパフォーマンスが高く、社会的な平等も進んでいると言われています。実際、本書によると男女平等オンブズの設置やジェンダー平等計画の策定、活発な女性団体の活動など、それを裏付ける側面があります。しかし一方で実態は単純ではなく、成績や学歴は女性の方が高いこと、男性は低学歴でも仕事につきやすいこと、職種によって大きな男女比の格差があること、女性にパートタイム労働が多いこと（それでも他国よりは少ない）など、統計のデータを使ってその複雑な構造を明らかにしています。また、本書ではフィンランドの性教育の教科書やインターネット教材を写真で掲載しており、同国の性教育の実態を具体的にイメージできるようにしています。性教育のカリキュラムも紹介しており、日本と比べてどう違うのかがよく分かります。私は日本とフィンランドでは性教育にずいぶん大きな違いがあるものだと思っていましたが、少なくとも教材やカリキュラムでは意外と大きく違わないものだなと感じました。本書はデータや写真が豊富なので、フィンランドの様子から逆に日本の様子が浮かび上がってくるかのようです。日本ではまだまだ正確に知られていないフィンランドや北欧のジェンダーとセクシャリティについて知るのに、本書は恰好の資料となるでしょう。