マンガ哲学辞典

私は収録された作品のほとんど（全部かも？）をかつて広告批評で読んでいます。その記憶を踏まえて、今読んでも視覚的にわかりやすく、深く、面白いと思うのですが...広告批評という雑誌は、形式としてはその名の通り書評誌の広告版のようなものでしたが、テーマとしては広告の上っ面でなく、今日的な課題をサブカルの文脈を使って考えよう、という意図があり、それが高校生、大学生にも読者の多かった理由の一つでした。このような雑誌の中で、橋本治さんはその本来のテーマを敷衍した、あるいは凝縮した漫画を描いていたのです。「いろいろメンドくさく考えてるけど、本質はこれでしょ？」と言わんばかりに。今回本書を読んで気になったのが、その「当時の若い世代には重要だったテーマ」の提示なしに、初読でこれらの作品を読む人がちゃんと面白がったり、考えを深めたりできるのだろうか...という点です。橋本さんご本人に頼めない今、他の識者などが解説めいたことを書いても、野暮というよりトンチンカンになりかねないので、解題のしようがないのかもしれませんが...私にとっては貴重な永久保存版の本ですが、橋本治の初読者に、ナンダコレハと思わせないような本の作りかたを、もうちょっと工夫できなかったかなあという思いが残ります。これが杞憂で、他の方も皆楽しんで、かつ、考える素材としていただけるなら、本当に嬉しいのですが。